シャトルCTでは右気管支動脈、左気管支動脈から分岐する右気管支動脈の拡張蛇行、右内胸動脈の拡張と分枝の拡張蛇行、下横隔動脈の拡張蛇行を認めた (図2) 。また大動脈相の後期で右肺動脈への造影剤の逆流を認め、いわゆるBA-PAシャントの存在が疑われた (図3) 。以上の結果から喀血に対して気管支動脈等の塞栓術が適応と判断しカテーテル治療を行った。
図2 6相目の3D再構成
右は必要な血管を色分けして表示している
黄:右内胸動脈、赤:右気管支動脈、緑:左気管支動脈から分岐する右気管支動脈、紫:右下横隔動脈、青:肺動脈 (右A5) への造影剤の逆流
図3 冠状断のMIP再構成画像
A)の肺動脈相で他の肺動脈よりは弱い造影効果をもつ肺動脈右A5(►)がB)の肺静脈相では造影効果が消失し、C)の下行大動脈相では他の肺動脈と異なり肺動脈右A5に強い造影効果を認める。これは気管支動脈(もしくは他胸郭周囲の体循環系動脈)とのシャント血流があるため、肺動脈相では体循環系からの逆流で他の肺動脈に比べ造影効果がやや低下し、大動脈相で気管支動脈からシャントを経て造影剤が肺動脈に逆流するためである。
カテーテルによる血管造影では右気管支動脈と右内胸動脈と肺動脈のシャントを認め (図4) 、同部位にgelを注入して血管閉塞を行った。
図4 BAEの際の血管造影
矢頭は体循環系動脈と肺動脈のシャント (BA-PAシャント) を経て逆行性に造影された肺動脈を示している
この症例ではシャトル撮影の手法を用いることで撮影範囲の制限無しにダイナミックスタディー (4Dスタディー) を行うことができた。その結果気管支動脈だけではなく、内胸動脈・下横隔動脈の形態も起始部から描出した上でBA-PAシャントも検出でき、同時に肺全体の血管構造の情報も得ることができる。またこの撮影では時相によっては大動脈と胸郭周囲の体循環系動脈のみが強く造影され、肺動静脈の造影効果が低下している画像を得ることができ、血管構造の同定が容易になる利点もある。以上の点でこの撮影法ではBAE前に非常に有用な情報を得ることができた。
シャトル撮影の特徴として通常の造影CTに比べ、はるかに少ない造影剤量 (通常は100mlのところTest injectionも含め36ml) で撮影が可能な点がある。この症例は待機症例であったためにBAEは後日行ったが、喀血は緊急症例であることが多く、造影CTを撮影した直後にBAEに入ることも多い。その際、造影CTでの造影剤使用量が少なければその分をBAE施行の際使用できるので低造影剤量で検査を行えることもこの撮影法の利点であると考える。
このように、64列CTを用いた造影シャトル撮影は肺血管全体を含む広範囲の4D画像を低被ばく・低造影剤で得られるため、血管構造や血流の把握に非常に有用な検査である。