Innova IGS 620 with AutoRightの使用経験

久留米大学病院
放射線部 長渕 康祐 様

久留米大学病院様は、1928年(昭和3年)に創立された九州医学専門学校に端を発しています。現在では高度な先進医療を実践する特定機能病院であり、地域がん診療連携拠点病院であり、高度救命救急センターを有していることも大きな特徴となっております。


今回、心臓カテーテル室の増設に伴い、2021年8月に新しく血管撮影装置(Innova IGS 620 with AutoRight)を導入し、使用を開始しました。運用から約半年が経過し、装置性能や運用面についての使用経験をお伺いしました。

当院の血管撮影装置


当院の血管撮影室にはこれまで、心臓領域専用装置、汎用装置、頭頚部領域用装置、体幹部領域用装置、およびハイブリッド手術室用装置の計5台が稼働をしていました。今回、心臓カテーテル室が増設となり、2021年8月よりInnova IGS 620 with AutoRight(GE Healthcare)を使用開始しています。


本装置の仕様ですが、最大視野20㎝×20㎝の間接変換型Flat Panel Detector(FPD)は、解像度14bit、ピクセルサイズ200μmです。衝突安全機構には、接触センサと非接触センサの2方式が採用されており、非接触センサはシングルプレーン時に作動します。心臓用DA撮影モードであるDynamic撮影の収集フレーム数は30fps、15fps、7.5fpsの3段階で切り替えが可能です。正面アームがオフセットCアーム構造となっているのが特長で、Cアームや寝台の回転を行わずに長手方向ストロークで鼠径部まで十分に観察できます。検査室内モニタは58インチのラージディスプレイと24インチ外付けモニタを2面付属し、電子カルテ、ポリグラフ、その他IVUSなどの外部入力画像を含めて統合表示できるよう構成しています。



Innova IGSS 620 with AutoRight、ラージディスプレイモニタ

当院における症例の内訳


心臓カテーテル室における年間症例数は下図に示す通りで、内訳は、冠動脈造影(CAG)検査が約700件、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が約240件、不整脈治療(カテーテルアブレーション)が約300件で、他に小児循環器検査・治療や末梢動脈疾患のカテーテル治療(EVT)、バルーン肺動脈形成術(BPA)などを行っています。2020年度以降は新型コロナウィルスの影響により症例数が減少しています。



久留米大学病院の心臓カテーテル室の症例数

Innova IGS 620 with AutoRightで実施した症例数の内訳


8月12日から12月31日までのおよそ4カ月間におけるInnova IGS 620 with AutoRightで実施した症例は、CAGやPCIが134例、EVTが35例、カテーテルアブレーションが26例でした。



Innova IGS 620 with AutoRightで実施した症例数の内訳

次に、導入時に検討した低被ばくの透視条件設定と冠動脈領域と不整脈治療での機能の活用について紹介します。


① 透視条件の設定方法
透視条件で変更可能なパラメータは、”フレームレート”、”Detail”、”Dose Reduction Strategy in fluoro”、および”Auto Exposure Dose Trajectories”の4つがあります。“フレームレート”は30、15、7.5、3.75fpsの4通りあります。線量モードである“Detail”にはNormal、Lowの2通りあり、メーカー提供資料によるとLowはNormalと比較して線量が50%以上低減されます(後述の“Dose Reduction Strategy in fluoro”がBalanced IQの場合は異なる)。線量低減ストラテジーの“Dose Reduction Strategy in fluoro”にはMax Dose Reduction、Balanced IQの2通りあり、フレームレートを低減した場合の線量低減率が変化します。メーカー提供資料によるとMax Dose ReductionではBalanced IQと比較して最大で約6割、最小で約3割の線量が低減されます。自動照射設定である“Auto Exposure Dose Trajectories”はIQ Plus、IQ Standard、RDL Plus、RDL Standardの4通りあり、それぞれ異なる線量カーブを持っています。下図は、IQ PlusのNormalを基準として後方散乱を含めない実測値でFOV20cm、SID100cm、PMMA20cm、15fpsかつBalanced IQで“Auto Exposure Dose Trajectories”と“Detail”を変化させた場合の線量変化のグラフです。



IQ Plus、Normalを基準にした、各条件での線量変化のグラフ(メーカー提供資料より)

② 冠動脈領域
冠動脈領域の検査・治療における透視条件は、フレームレート7.5fpsに設定しています。当院での透視条件設定を表に示します。この設定条件において、指頭型電離箱を用いて臨床と同じ配置での線量率を計測しました。FOV20cm、SID100cm、PMMA20cmでの患者照射基準点における透視線量率は6.74mGy/minでした。既存の他社装置の場合では、透視フレームレート設定を7.5fpsに小さくすると残像が目立つ傾向が強いため、稼働前に滑らかな動作とノイズのバランスの良い動画の設定を行っています。線量を抑えた設定にも関わらず、透視画像にて既存他装置に引けを取らない視認性を実現しています。



冠動脈撮影条件:7.5fpsでも視認性が保たれている

ステント強調画像 StentViz
StentVizは、撮影にて30フレームの画像を取得し、2点のマーカー(ステント部)を検出した各画像を加算平均することで、静止した冠動脈ステント強調画像を作成、表示する機能です。本体装置で処理が行われ、処理画像は約2秒で表示されます。リアルタイムによるステント強調画像表示はありませんが、短時間での撮影および処理により、被ばく線量を最小限に抑えながらステントの状態を確認することが可能です。加えて、X線管選択の制限がなく、正面のみ、側面のみ、Bi-Plane時(正面優先)においても処理時間に差異なく表示される点、また、胸骨ワイヤーなどマーカー以外の構造物により処理結果が正しく表示されない場合においても、手動による領域設定により再処理が可能なため、再撮影が不要であるところで利便性が高いです。



StentViz画像

Innova Syncro3D
ワークステーションで作成したボリュームレンダリング(VR)画像とアームを同期連動する機能です。この機能にはVR画像を正面アームの角度に追従させて連動する機能とVR画像で決定した角度情報をアームに転送して連動させる機能があります。位置合わせを必要としないため簡便に利用できます。下図に使用例を提示します。術中に、「右冠動脈本幹と右室枝を分離できる角度を探してほしい」との依頼があり、VR画像上で右冠動脈本幹と右室枝の短軸にワイヤーフレームを表示させ、2つのワイヤーフレームが直線になる角度、すなわち分離の良い角度を確認した後、この角度をInnova Syncro 3D機能によって正面アームに連動させました。連動時のアーム挙動は、転送した角度に近い側のアームがポジション移動し、対側アームは直行する角度へポジション移動されます。



VR画像で右冠動脈本幹と右室枝の短軸が分離できる角度を確認し、Cアームに角度情報を連動させた(RAO 45度、CRA 17度)

③ 不整脈治療
透視条件設定
不整脈治療時の透視条件は、フレームレート7.5fpsの設定にしています。早い動きに対応する必要性の少ない手技ではありますが、3.75fpsでは細かなカテーテル操作に対応が困難であったため、7.5fpsを選択しました。下に当院での透視条件設定を示します。この設定条件において、指頭型電離箱を用いて臨床と同じ配置での線量率を計測しました。FOV20cm、SID100cm、PMMA20cmでの患者照射基準点における透視線量率は1.61mGy/minでした。ただし、体格や角度によって視認性が低下する事が予想される場合や、詳細な透視画像を求められる場合に備え、線量や画像処理の異なる複数の設定をプリセットしています。なお、手技中に設定変更を行ってもFPDキャリブレーションが実施されないため、手技の妨げとなることはありません。



Heart Vision
Heart Visionは透視画像とVR画像を重ね合わせて表示する機能です。当院では、主に心房細動のカテーテルアブレーション時に利用しています。事前に、術前CT画像から透視画像に重ね合わせ用の左心房と右心房、そして位置合わせに必要な椎体と気管支のVRを作成しておく必要があります。位置合わせは、第1斜位、第2斜位の2方向の透視(ラストイメージホールド)画像を利用して行います。透視を利用するため、撮影に比べ被ばくは少なく実施できますが、透視線量が低すぎると位置合わせが困難となるため注意が必要です。
下の画像は、3Dマッピングを使用しないCRYO Balloon Ablationでの使用例を下図に提示します。右心房と左心房を表示することで卵円窩の位置がイメージでき、ブロッケンブロー前のカテーテル操作の支援画像となります。この重ね合わせたCT画像はアーム角度を変更しても追従しますので、医師からは位置の把握がしやすく分かりやすいと評価されています。前述のように透視による位置合わせのため、体動や臓器の移動によって位置ずれが生じた場合でも、簡単に微調整を行うことが可能です。



第1斜位、第2斜位での椎体および気管支による位置合わせ


左:ブロッケンブロー前の支援画像 右:電位測定時の支援画像

まとめ


血管撮影装置の新規導入により、従来ではできなかったCT画像とのフュージョンなどが使用できるようになったことで手技の支援の幅が広がりました。また、被ばく線量を抑えた条件下で従来と同等の透視画像提供が可能となり、既存の装置に比べて低線量で手技を実施できています。このことにより患者並びに医療従事者の被ばく低減に寄与しています。また、水晶体被ばく限度が引き下げられたこともあり低線量は大きな魅力です。
今後も、GEヘルスケアジャパン担当者とも意見交換を行い、Innova IGS 620 with AutoRightの性能を引き出し、最適な画像を提供できるように努めていきたいと思います。

 

 

※お客様のご使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

 

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