Discovery MI.x 5Ringの実力と分注投与、収集時間可変撮像の実践


岐阜大学医学部附属病院
三浦 賢征 様

施設紹介

 

岐阜県は人口200万人の海のない内陸に所在し、夏は40℃を超える美濃地方と冬はマイナス10℃を下回る飛騨地方からなります。その岐阜県にある当院は特定機能病院・基幹災害医療センター・原子力災害拠点病院等の指定を受け、岐阜県の中枢病院として機能しています。独自のドクターカーを有するとともに、岐阜県のドクターヘリの基地病院として、高度救命救急センターが中心となり、岐阜県全域の救急医療にも貢献しています。

 

導入背景

 

当院はデリバリーの18F-FDGを使用し、年間約2000例の検査を施行しています。1日あたり最大11件を施行する為、画質・安全性と共に短いスループットが求められます。その為1Bedの撮像範囲が広く、ディバイス不要の呼吸同期 (Advanced MotionFree, 以下AMF)が可能なDiscovery MI.xの導入に至りました。

 

新旧装置の比較

 

Discovery MI.xは5Ringの半導体検出器を要し、Q.Clear、AMF等の最新技術を搭載しています。この優れたハード面、ソフト面の進化は非常に高い感度、分解能を要し、短時間で高画質の画像の撮像を実現しています (図1)。 NEMA Body Phantomにおいて分解能を確認すると、旧装置で90secの収集時間で認識困難であった10mmのhot球が、Discovery MI.xではわずか30secで認識する事ができます(図2)。


図1. 新旧装置のMIP画像比較

 


図2. 新旧装置のNEMA Body Phantom比較

 

しかし、FDG-PETの画質は機種以外にも、投与量、撮像時間、被験者の体格に依存します。「がんFDG-PET/CT撮像法ガイドライン」には、体格の大きい患者を撮像する場合、標準体型の患者と同程度の画質を得るには、投与量を増やすと偶発同時係数が増加し画質向上に繋がらない事があるとされています。その為当院では、『収集時間可変撮像』を行って画質を担保しているので、その方法をご紹介します。

 

当院の撮像方法

 

Discovery MI.xは検出器が5Ringな為、体軸方向の撮像範囲は25cmとなっており、大半の患者が頭頂から鼠径部まで5Bedで撮像する事ができます。1Bedの収集時間を基本90secと設定している為、最短で全身を450sec(=7.5min)で撮像することが可能です。AMFは呼吸性体動が最も多い気管支分岐部から腎臓下縁までを含むように2Bedで設定しています。

次に投与量についてです。装置更新前は18F-FDGを全量投与していました。その時、当院の中央値は237.9MBqとDRLs2020の基準値240MBqを何とか下回る結果でした。しかし、放射能量が高い第1検定のみを集計したところ247.6MBqという結果になり、DRLs2020の閾値を超えていた事がわかりました。対応策として、分注機能付きの自動投与装置を使用し、3.7MBq/kgを投与する事で第1検定の中央値は204.9MBqに改善する事ができました(表1)。

 


表1. DRLs2020と当院投与量中央値の比較

 

[基本収集条件]
Uptake Time : 50~70min
Base Bed Time : 90sec
Total Time : 450sec(+AMF)
BSREM(Q.Clear): β700
Dose : 3.7 MBq/kg

 

続いて収集時間可変撮像の方法を説明します。当院では後述する収集時間可変方法①~③の積を計算し撮像しています。

(収集時間可変方法① UpTake Timeの遅延を補正する為の収集時間延長)
当院のUpTake Timeは基本50minとしています。しかし、移動が困難な方、他患者撮像の兼ね合い等で撮像開始が遅れた場合は18Fの放射能減衰を補正する為、収集時間を延長して撮像しています。表2は基準の50minと同カウント取得するにはどれくらい収集時間を延長すれば良いかを物理半減期から算出した表になります。例えば、70分後に撮像開始するときは収集時間を90秒から102秒変更して撮像します。

 

 


表2. UpTake Timeが遅延した場合の減衰補正表

 

 

(収集時間可変方法② 18F-FDGの投与量不足を補正する為の収集時間延長)
前述したとおり、デリバリー18F-FDGを使用して検査を行っており、分注機能付きの自動投与装置を使用して3.7MBq/kgを投与しています。しかし70kgの患者を検査する時、投与量は259MBq必要ですが、包装単位が185MBqの18F-FDGを検定時刻丁度に投与する場合、投与量不足となります。これを補正する為、以下の計算式を用いて収集時間を延長し、259MBq投与した時と同等のカウントを収集できるようにしています。

投与量不足の補正 = 体重 × 3.7 (MBq/kg) ÷ 実際の投与量

実際に計算すると、70kg × 3.7MBq/kg ÷ 185MBq = 1.4となり、基本の収集時間を1.4倍にして撮像しています。

 

 

(収集時間可変方法③ 体格補正の収集時間延長)
体格の大きい患者を撮像する場合、標準体型の患者と同程度の画質を得るためには、投与量を増やすよりも撮像時間を延長する方が効果的とされています。現在、半導体検出器で撮像する場合のBMIでの体格補正方法を考案中の為、暫定的に光電子増倍管での論文や文献より体格補正係数を引用し撮像しています。

 


表3. 体格補正係数表例(引用: デリバリーPETの基礎と臨床 日本メジフィジックス)

 

以上が収集時間可変撮像の説明になります。
例として、下記の条件で1Bedの収集時間を計算します。

( 体重:70kg、BMI:27、18F-FDG Dose:185MBq、Uptake Time:70min )

収集時間可変方法①:Uptake Time 70min 表1より → 102 sec
収集時間可変方法②:70kg × 3.7MBq/kg ÷ 185MBq = 1.4倍
収集時間可変方法③:BMI 27 表2より → 1.28倍

1Bedの収集時間:102sec × 1.4 × 1.28 ≒ 183 sec

実臨床においても毎患者この計算をおこない収集時間を算出し撮像しています。

 

症例提示①

 

体重: 118kg、BMI:41.3の症例に対し、収集時間可変撮像を行い1Bed: 240sec収集した場合と基本収集条件1Bed: 90secで収集した場合の比較です(図3)。
基本収集条件での撮像では体格が大きいため、標準体型に比べMIP画像においてノイズの増幅により画質が劣化しています。しかし収集時間を延長することにより画質は向上し、物理学的評価においてもSDは低下し、肝SNRが向上しています。

 


図3. 高BMI患者を収集時間可変撮像と基本収集条件で撮像した場合の比較

 

症例提示②

 

図4は18F-FDGが過少投与になった症例に対し、収集時間可変方法②の計算により収集時間を135secに延長して撮像した画像と基本収集条件で撮像した画像の比較です。
(体重:55kg、目標の投与量:203.5Mbq、実際の投与量:135.0MBq)
基本収集条件のMIP、Fusionの画像において可変収集時間条件の画像よりもノイズが増幅していることが確認でき、肝S7の低濃度結節の形が変化している事がわかります。

 


図4. 18F-FDGが過少投与の症例に対し収集時間可変と基本収集条件で撮像した画像の比較

 

まとめ

 

体格の大きい患者、18F-FDG過少投与の患者を基本収集条件で撮像すると、ノイズ増幅による画質劣化、肝臓SNRの低下が認められました。その為、全ての条件で同等の画質に保つためには『収集時間可変撮像』が必要だと考えます。まだ体格補正の収集時間延長については検討段階である為、今後も他施設の先生方の報告や自施設の研究を重ね、より精度の高い検査を実現したいと考えています。

 

※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

JB07332JA